どう働く人のモチベーションを高めるか?どうやって効率性と生産性を向上させるか?ということが管理者・経営者が知りたいことではないでしょうか。
フレデリック・テイラーが1911年に書いた『科学的管理法の原則』は、当時、企業経営に革新をもたらす理論として注目されました。
- 労働者を機械のように効率化することで雇用主にもっと利益をもたらす!
- 働く人のモチベーションはお金だ、成果報酬にして効率的に働かせよう!
といった内容で、働く人の心を無視していると、のちに批判も受けるのですが・・・
生産性の向上と利益の増加をもたらす管理法として有名になったマネジメント原則、テイラーの『科学的管理法』についてわかりやすくまとめます。
科学的管理法をわかりやすく
目的:
- 使用者(管理者側)に、生産性の向上と利益の増加をもたらす。
- 労働者には、成果に基づく報酬によって収入の増加をもたらす。
- 「科学的な方法」によって「雇用主に限りない繁栄を、働き手に最大限の豊かさを」もたらすことができ、対立を避けられると考えた。
テイラーの理論では、労働者のモチベーションは主に経済的な報酬(外発的動機づけ)に基づいているとされます。

ちなみに、テイラーは学者ではなく工場で働いた実務経験を基に、効率化と標準化の方法を体系化し、本にまとめて有名になった人です。
フレデリック・テイラー(1856~1915年)
- 米国ペンシルベニア州で裕福なクエーカー教徒の家庭に生まれ育つ。
- 大学で工学を学び、機械工学の学位を取得。
- 初めは工場で作業員として働き、後に工場の管理者に。
- さらにコンサルタントとしても活躍。
- 1911年に『科学的管理法の原則』を発表。生産性向上の理論が製造業に大きな影響を与える。
科学的管理法:4つの要点
1. 労働現場の科学的分析と手順の標準化
テイラーは、仕事のやり方を詳細に分析し、最も効率的な方法を見つけることを目指した。不必要な動きを排除するために、熟練従業員の動作や時間の研究などを行った。
作業量(課業)の基準を設定し、標準化する。仕事の成果や生産量に応じて報酬を与える成果主義に基づく報酬制度、差別的出来高払制を導入。
2. 労働者の科学的な選考、教育と訓練
労働者が効率よく働くために適正配置をすること、適切な育成を行うことの重要性を強調した。訓練によって、労働者の技術や効率が向上することを目指した。
3. 労働者との親密な協力の実現
労働者が計画通りの効率的な作業を行えるよう、「親密な協力」を実現することが管理者の重要な役割の一つと考えた。
- 労働者が科学的管理の原則を理解し、それに従えるよう指導や訓練を行う。
- 労働者が作業を円滑に進められるよう、サポートを提供する。
4. 仕事と責任の役割分担
労働者は科学的に計画された手順に従って作業を行い、管理者は計画を立てて指示を与える役割を担う。
明確な役割分担(職務内容を分ける)により、仕事が効率化されると考えた。
科学的管理法の事例・現代の具体例
マクドナルドや日本企業トヨタは、テイラーの影響を受けた管理法が両社の基盤に存在しています。科学的管理法の原則を現代的にアレンジし、より効率的で柔軟な管理システムに進化させています。
トヨタの生産方式(TPS)
- 作業の標準化と効率化を重視し、ムダを排除。
- 各作業の最適化、作業手順の明確化により生産性を向上。
- 「カイゼン」活動を通じて継続的な改善を推進。
マクドナルドのオペレーション
- 作業の標準化と効率化で、全店舗で同じクオリティを維持。
- 「マクドナルド方式」による迅速なサービス提供。
- 作業者ごとの役割分担と定型化された手順で効率的な運営。
科学的管理法のメリット・デメリット
メリット
- 生産性の向上:
作業の標準化や効率化により、無駄を排除し、生産性が大幅に向上する。 - 作業の明確化:
役割分担が明確になり管理者と労働者の責任範囲が整理され、効率的な組織運営が可能になる。管理業務と作業の効率が上がる。 - 成果報酬:
成果に基づく報酬制度が導入されることで、労働者のやる気が向上する(特に短期的には効果的)。
デメリット
- 内発的動機付けの無視:
作業が単調で機械的になるため、労働者が仕事にやりがいや満足感を感じにくくなる。外発的動機付け(金銭的な報酬)は、自己実現や社会的意義など内発的動機付けが含まれず、長期的には限界がある。 - 柔軟性の欠如:
標準化された作業手順に依存するため、予期せぬ事態や創造的な対応が求められる状況に弱い。 - 労使関係の摩擦:
管理者が主導権を握りすぎることで、労働者が支配されていると感じ、対立や不満が生じやすい。
科学的管理法の問題点・批判される理由
科学的管理法は、労働者を機械的に扱い人間性を軽視していると批判されました。
外発的動機付け(報酬)に依存し、労働者の内発的動機付け(自己実現、やりがい)を無視する点が問題です。創造性や自主性を抑制し、職務に対する情熱や満足感が欠如していると言われます。
柔軟な働き方や個々のニーズに対応することが、現在の組織においては重要視されており、科学的管理法だけでは不十分であるとされています。
科学的管理法と人間関係論の比較
科学的管理法は、効率性と生産性を重視し、外発的動機付け(報酬)に依存する一方、労働者の内発的動機や人間性を無視します。
対照的に、人間関係論は、労働者の感情や人間関係の重要性を強調し、心理的満足感や協力的な労使関係が生産性向上に寄与すると考えます。
科学的管理法が機械的で冷徹なのに対し、人間関係論は労働者のモチベーションと満足感を重視します。