心身症とは心の負担が体に影響を与えて病気になったり、症状が悪化したりすることです。
精神的な病気と間違われがちですが、これは病名ではなく病態の総称(病気によって体に起こる変化を示す一連の身体疾患)を意味します。
心身症の例として、下痢、偏頭痛、円形脱毛症、ぜんそくや高血圧など様々な疾患があります。
心身症の症状、うつ病など精神疾患との違い、治し方についてわかりやすくまとめました。
心身症とは
心身症とは、ストレスや人間関係、生活環境などの影響から、体調不良が現れる状態です。背景に心の状態が深く関係していますが、あくまでも体の病気であり、精神疾患ではありません。
心身症の診断には身体疾患であることが必要条件です。精神疾患に伴う身体症状(うつ病で倦怠感や食欲不振が生じるなど)は、心身症ではありません。
日本心身医学会の定義では「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与しており、器質的または機能的な障害が認められる病態」とされています。
心身症の症状とは
心身症は身体疾患の中で、ストレスや人間関係などの心理的な影響や社会的な環境(心理社会的な因子)が強く関係して起こり、体に明らかな病気や調子の悪さが見られる状態です。
症状は、実際に臓器や体の構造に変化(器質的障害)が現れる場合もあれば、見た目の異常はないが機能に問題が出る(機能的障害)場合も含みます。
「ストレスで胃酸が過剰に分泌され、胃潰瘍になる」場合は、器質的障害です。検査(胃カメラなど)で構造的な損傷が確認され、物理的に異常があるため器質的です。
一方で、「腸に異常は見られないが、下痢や腹痛が起こる」「頭が痛いけど、脳に異常はない」など、検査をしても異常が見つからないけど不調がある場合は、機能的障害です。
器質的障害 | 機能的障害 |
身体の構造そのものに異常や変化 | 器質的な異常がないのに、体が正常に働かない状態 |
臓器や組織が物理的に壊れたり、炎症や腫れ、傷などが見られる状態 | 調べても臓器に明確な異常がないにもかかわらず、機能に問題が生じるもの |
心身症の症状例一覧
心身症の器質的障害 | 心身症の機能的障害 |
胃潰瘍・十二指腸潰瘍 本態性高血圧症 気管支喘息 アトピー性皮膚炎 じんましん など |
過敏性腸症候群 心臓神経症過換気症候群 緊張型頭痛 肩こり・首のこり 過活動膀胱 心因性頻尿 月経困難症 心因性不妊症 摂食障害 慢性疲労症候群 歯ぎしり・顎関節症 など |
心身症と精神疾患(うつ病など)の違い
神経症やうつ病などの精神疾患に伴う体の症状は、心身症とは区別されます。
心身症:身体症状が主な悩みで、体の病気として診断されます(例:胃潰瘍、喘息、高血圧など)。
精神疾患:精神的な病気(例:うつ病、不安障害など)が主で、それに伴って身体症状が現れます。
心身症 | 精神疾患 | |
症状 | 症状が具体的な身体の部位に現れる(胃痛、動悸、便秘など) | 気分の変調(抑うつ、不安)や、全身的な不調感が強いことが多い |
原因 | 身体疾患の発症や経過に心理社会的な因子(ストレスや性格など)が密接に関与しているが、中心は身体の問題 | 心の病気そのものが主因で、身体症状が現れる場合でも、それは心の問題から派生したもの |
例 | 胃潰瘍、過敏性腸症候群、高血圧(ストレスが悪化要因になる) | うつ病で倦怠感や食欲不振が生じる |
病態 | 身体に具体的な病態が確認されることが多い(胃の炎症、血圧の上昇など)。心理的な要因が絡むものの、身体疾患としての治療も必要 | 身体症状が現れても、病気の根本原因は精神面(脳内の神経伝達物質の不調、心理的ストレスなど)にある |
治療 | 心理社会的な要因へのアプローチと、身体疾患への治療(薬や生活習慣の改善)が併用 | 心理療法(カウンセリング)や精神科の薬物療法が主体 |
心身症になりやすい性格
心身症になりやすい人として、2つのタイプが指摘されています。
アレキシサイミア(Alexithymia)
アレキシサイミアとは、自分の感情や心の中で起きていること(悲しいなど)に気づけなかったり、それを言葉で表すのが不得意な人の傾向のことです。
「自分自身の感情や葛藤の認識や表出の障害」と言われ、日本語では「失感情症」と訳されることもあります。
アレキシサイミアの傾向を持つ人は、自らの感情を認識することが苦手で、それを表現することもないため、身体の症状として現れてしまうと考えられています。
過剰適応
過剰適応とは、自分の欲求や感情・思考を抑圧して、周囲に同調している状態、他人や環境の期待に応えようとしすぎることで、自分の本当の気持ちを無視、ニーズを犠牲にしてしまう状態を指します。
本人はストレスに気づかないまま、過剰に周囲に合わせようとすることで、体に影響を及ぼすことがあります。
心身症患者本人は心理的ストレスに気づかないまま、過剰適応していることが少なくないため、自分の不調と心理的ストレスの関連を認識することは難しいと考えられます。
心身症の治し方
治療のアプローチは心身両面(身体治療+心理的サポート)から、労働条件や職場環境など、多角的にアプローチすることが必要です。
身体的治療
- 薬物療法(精神科、心療内科)
- 生活習慣の改善(睡眠、栄養、運動)
心理的治療
- 心理療法
認知行動療法 (CBT):ストレスや不安を引き起こす思考パターンを見直し、より前向きな考え方を学ぶ。
支持的カウンセリング:ストレスの原因を整理し、安心感を得る。 - リラクゼーション法
自律訓練法や瞑想、深呼吸法などでリラックスを促す。 - ストレス管理
ストレスの原因を特定し、対処法を学ぶ。
社会的支援
- 環境の改善
職場や家庭でのストレス要因を減らす。環境の調整や人間関係の改善を図る。 - サポートネットワーク
周囲の人からのサポート、専門家のアドバイスを受ける。