「社内政治とは」を考えるために、集団、組織、制度、会社、政治の定義とは何なのか、順に確認していきます。
集団とは
人が複数集まり、互いに関わり合っている状態や、そのような人々のまとまりのこと。単に人が集まっただけの「群集」とは異なる(共通の目的や持続的な関係を必ずしも持たない、一時的な人々の集合。例:満員電車、スクランブル交差点)。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「人間は自然にポリス的動物である」と考えました(ポリス(polis): 古代ギリシャの市民が共同生活を送った都市国家)。
ここでいう「ポリス的」とは、単に人間が群れるという意味ではなく、人間は言葉を交わし、善悪や正義について考えを共有しながら、共に生きる共同体を形成する存在であるという意味です。
つまり、人間が集団を形成し、互いに関わり合うことは、人間の本性に根ざした自然な帰結だと考えることができます。
したがって、人間が集団を形成し、互いに影響を及ぼし合うことは、人間が人間として生きることに伴う自然な性質であると捉えられます。
組織とは
集団の中でも、役割やルールが定まったものが組織と言えます。
社会学者マックス・ウェーバーの近代的な官僚制組織の特徴には「役職に基づく権限の分担」と「明文化された規則」によって成り立つという捉え方があります。
組織の仕事は「人」ではなく「役職(ポスト)」に割り当てられます。「誰が」という個人ではなく「どの役職が」権限を持つか、というのがポイントです。構成員が代わっても、役職に紐づいたルールや機能は残るという、近代組織(官僚制)の特徴を端的に表しています。
近代的な組織では、明文化された規則が重要な役割を果たし、意思決定や業務は、個人の感情や気分ではなく、あらかじめ文字で書かれたルール(法令、規程、マニュアル)に従って行われます。
集団と組織の違いとは
組織は、集団の一種。
組織には、目的・役割・権限・意思決定の仕組みなどが比較的明確に構造化されています。法律や規程など、文字で書かれた明文化されたルールが重要な役割を果たします。その場の雰囲気で有給休暇の日数が決められたらたまりませんし、ノリで手当が出るかどうか決められたら、不安で働きづらいこと間違いありません。
一方で、組織化の程度が比較的低い集団(家族、友人、自然発生的なコミュニティなど)では、明文化された公式なルールよりも、「空気を読むこと」「共通のノリ」「暗黙の了解」など、書かれていない規範が重要な役割を果たす場合があります。
制度とは
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ダグラス・ノースは、制度を、人々の社会的な相互作用を制約する「ゲームのルール」と捉えました。
そのルールには、明文化された法律や規則などのフォーマルな制度と、慣習、タブー、倫理、行動規範などのインフォーマルな制度の両方があります。
家族は、日々の運営や役割分担が「書かれていない暗黙の了解や慣習」によって維持されているという意味で、インフォーマルな制度が働いている場の一例と言えます。
会社とは
組織の中でも、会社は営利を目的とし、法的に定義されたものです。
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ロナルド・コースは、会社が存在するのは、すべてを市場での個別契約にするより、組織としてまとめたほうがコストが低いからだ、と説明しました。(論文『企業の性質(The Nature of the Firm)』)
会社は単なる「人の集まり」ではなく、市場での取引コスト(交渉や契約の手間)を削減し、経済活動を効率的に行うために形成される組織だということです。
この視点から見ると、自然に形成された「集団」と、目的を持って設計された「会社」という組織の違いを理解しやすくなります。
政治とは
政治とは、と調べると、政治学や政治哲学では次のような概念が出てきます。
多様な人間が集まる場において、対話と言葉の力、そして人々の間に働く権力関係(権力の力学※)を用いて、共存のための合意と秩序をつくり出す営みのこと。
この定義は”あるべき政治”の姿が表現されており、「政治は本来、良いもの・建設的なものだ」という前提があるように感じられます。実際には、対立や分断を生み出したり、戦争、暴力や支配など、「言葉(対話)」で行われていない、きれいごとではない現実もあるように思います。
(※権力の力学とは?例えば、会議の場で、声の大きい人・多数派・専門知識を持つ人などが、他の人の意見に影響を与えること)
社会学者マックス・ウェーバーは「政治とは、権力を分有しようとすること、または権力の配分に影響を及ぼそうとすることである」と定義しています。(講演『職業としての政治』、1919年)
つまり、あらゆる人間の集まりの背後には「誰が力(影響力)を持ち、それがどう配分・決定されるか」という力学が存在します。その決定や動向に関わる営み全般を「政治」と定義しています。
平たく言うと、
政治とは、集団・組織・会社の中で「誰が力を持ち、それをどう使うか」「誰の意見が通りやすいか」を決めていく、目に見えない働きのこと。
人間が集まれば、そこには必ず「誰が主導権を握り、どうルールを決めるか」という「政治」が自然と発生する。
社内政治とは
社内政治とは、「評価・給料・キャリア」という個人的な利害と、簡単には離れられない人間関係が絡み合う中で、誰がイニシアチブ(決定権)を握るかをめぐって、自然と生まれる力学のこと。
なぜ、ただの集団の「政治」よりも、「社内政治」は悩ましく感じられることがあるのでしょうか?
一つの見方として、会社という場所が「生計」と直結しており、さらに上司や同僚を自分で自由に選べない、階層構造(ヒエラルキー)のある空間であることが関係しているのかもしれません。
「共存のための合意と秩序をつくり出す営み」という政治の理想ではおさまらず、自分の立場や評価を守り抜くための、リアルな生存戦略、勝ち取る、という側面を社内政治は帯びてくるように思われます。
